1970年代に2度にわたって起きたオイルショックや東日本大震災などを機に、日本では省エネへのさまざまな動きが進められています。
そして、そんな省エネの動きの一つとして定められているのがトップランナー制度による「トップランナー基準」です。
トップランナー基準とは、省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)に基づいた機器のエネルギー消費効率基準のことですが、知らない人も多いことでしょう。
そこで、この記事では、家づくりを検討している人なら知っておきたい「トップランナー基準」と住宅づくりとの関わりについて分かりやすく解説します。
トップランナー基準とは何か?
「トップランナー基準」とは、一次エネルギーの消費量を抑えるために設けられた基準のことです。
一次エネルギーとは石油や石炭、天然ガス、水力といった自然から得られる変換加工の不要なもので、家庭で使う電気やガスを作り出すのに必要なエネルギーのことをいいます。
電力を消費する機器のなかで省エネルギー効果の性能に優れた機器を「トップランナー」とし、トップランナーとしての性能レベル以上であるかの目安として設定した基準をトップランナー基準といいます。
ただし、これは通称で、正式な名称は、「住宅事業建築主の判断の基準」です。
トップランナー基準は、2009年に「省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)」が改正されたことによって新たに定められました。省エネ法は、1980年に旧省エネ基準が設定されて以来、たびたび改正されているものです。
トップランナー基準については、京都議定書の地球環境保護に対する厳しい内容に対応するために設けられました。京都議定書は、1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で採択されたものです。
トップランナー制度の基準対象となるものにはさまざまありますが、たとえば乗用車や貨物自動車などが挙げられます。住宅建設にかかわるものでは、家庭の冷暖房設備や給湯・換気・照明などの各設備です。
2013年の省エネ法改正により外壁や窓といった住宅を囲む外皮部の断熱性能に加えて、二次エネルギーの効率化も求められるようになり考慮されるようになりました。
トップランナー基準では、特定の事業主に対して、建売戸建住宅の一次エネルギー消費量の基準達成率平均が100%を下回らないように努めることが求められています
。特定の事業主とは、年間150戸以上の建売住宅を販売する一定規模以上の事業主です。また、達成率の平均値を国土交通省に報告することも必要とされています。
なお、一次エネルギー消費量とは、一次エネルギーを熱量換算した値のことです。一次エネルギーが少ないほど省エネ住宅になります。
トップランナー基準の内容とは
トップランナー基準を満たしている住宅とされるためには、既定の条件をクリアしていることが必要とされます。
具体的には、断熱性能が「次世代省エネ基準」を満たし、さらに設備機器の一次エネルギー消費量が、2008年時点における一般的な住宅と比べて10%削減する機能や性能を有した住宅です。
次世代省エネ基準は住宅性能表示制度で「省エネ等級4」にあたるとされています。住宅性能表示制度とは、消費者が住宅を安心して手に入れることができるように、共通のルールによって住宅の性能を表示化する制度です。
この制度は2000年施行の「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づくもので、客観的に判断する第三者機関により評価されるため、信頼性が高いものであるとされています。
そもそも、エネルギー基準について初めて定められたのは1980年の「旧省エネルギー基準」で、その後、1992年に「新省エネルギー基準」が設けられました。
次世代省エネ基準は、さらにその後となる1999年に改正されたものです。10~30%程度の省エネ効果を目指すなど、前段階の新省エネ基準と比べて、さらに高いレベルの基準が設けられています。そして、2013年には「改正省エネ基準」が新たに施行されました。
改正省エネ基準では、一次エネルギー消費量の指標の追加や断熱基準の計算方法の変更が行われています。加えて、断熱の地域区分についても6地域から8地域へと変わりました。
なお、トップランナー基準でも一次エネルギー消費量について、地域ごとに8段階の異なる基準が決められています。これは、日本では北海道から沖縄まで地域によって気候の特色が異なるためです。
トップランナー基準の対象設備機器は?
トップランナー基準では、次世代省エネ基準を満たした住宅であることに加えて設備機器にも定めがあります。対象と定められている設備は、冷房設備、給湯設備、換気設備、照明設備です。
一方、テレビ、洗濯機などの家電機器や調理機器は評価の対象となっていませんが、太陽光発電設備などを設置した場合には、一次エネルギー消費を算定する際に発電効果が考慮されます。
そして、高効率給湯設備や節湯器具、熱交換型換気設備や高効率空気調和設備などの採用も必要となります。
また、最新機種のエコキュートや省エネエアコンといった設備が搭載されていると必要な条件に該当することになりますが、詳細な算定方法が定められており、工務店や設計事務所でなければ理解できない内容です。
加えて、2013年には、断熱効果のある建築材料を対象とした「建材トップランナー制度」も施行されました。建材トップランナー制度の対象となるものは、従来のトップランナー制度の対象機器のように自らエネルギーを消費しなくても、省エネを目指すことができるものです。
トップランナー制度の対象となるものとは、具体的には断熱材のほか、2014年に加わった窓があります。窓は複層ガラスとサッシが別々の対象物として扱われており、目標基準値はそれぞれで別の設定となっています。
トップランナー基準を満たすとお得!
トップランナー基準を満たした住宅は、高い省エネ効果を持っていることが証明されることになります。省エネ住宅に住むと、夏は涼しく冬は暖かいといった快適な住環境を手に入れることが可能です。
そのうえ、結露などによるカビの発生を防ぐこともできることから、住む人にとって利点の多い家となっています。
結露などを抑制すれば建物の老朽化を抑えることもできます。また、省エネと同時に光熱費が安くなるというのも魅力でしょう。
断熱性に優れた家はエアコンなどを過剰に使用する必要がなかったりするためです。さらに、高い省エネ性能があると認定されれば、優遇措置も多くなります。
二酸化炭素の排出を抑えた低炭素住宅や長期的に使用できる性能があると認められた長期優良住宅であれば、節税にもつながるのです。
たとえば、2021年3月31日までであれば、新築物件の購入での保存登記においての登録免許税が0.15%から0.1%に軽減されます。
さらに、【フラット35】S(金利Aプラン)の金利優遇を受けることも可能です。このプランは、住宅金融支援機構が民間金融機関と提携して提供しているもので、借入当初10年間はフラット35の借入金利を0.35%引き下げた利率で利用することができます。
ただし、以前は住宅性能表示等級4のトップランナー基準でも【フラット35】S(金利Aプラン)の金利優遇の対象でしたが、2017年3月末でトップランナー基準についての金利優遇は廃止となっています。
金利Aプランを利用するためには、一次エネルギー消費量等級5の住宅であったり、低炭素住宅に認定されていたりといった高い基準を満たすことが必要です。
また、ほかにも導入しやすいようにと「住宅・建築物省CO2推進モデル事業」による補助もあります。住宅・建築物省CO2推進モデル事業とは、省CO2への対策に優れた住宅や建築についてのプロジェクトを国土交通省が公募し、その整備費などの一部を補助する事業です。
これらの補助金や税金の優遇制度などを上手に活用することで、住宅設備にかかる費用を抑えて設置したり、維持費を安くできたりすることも可能となります。このため、注文住宅を建てる際にはぜひチェックしておくようにしましょう。
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