GOETHE2018年6月号
社長の邸宅 Vol.3
個性やアイデアを存分に発揮できる「社長の邸宅」プロジェクト。
フリーダムアーキテクツデザインの鐘撞社長自らが依頼主の自宅を訪ね、
理想の家ができるまでを解説してくれた。
Text=川岸 徹 Photograph=古谷利幸
畑野幸治 / FUNDBOOK代表取締役CEO(右)
1983年生まれ。大学在学中に起業し、インターネット広告事業を展開。2017年8月にはFUNDBOOKを立ち上げ、中小企業経営者の問題解決に特化したM&A事業を展開。著書に『M&Aという選択』(プレジデント社)。
鐘撞 正也 / フリーダムアーキテクツ 代表取締役社長(左)
1971年生まれ。”注文住宅受注件数が全国No.1の設計事務所”フリーダムアーキテクツデザインを率いる。設計者でありながら、経営者としての視点を持つ。著書に『夢を叶えるデザイン住宅の建て方』(幻冬舎)など。
両親への感謝を込めて邸宅をプレゼント
親孝行のために、両親に家をプレゼントしたい。そんな気持ちを持っていても、なかなか実現できることは少ないですよね。でも、30代の若さでその思いをかなえたのが、FUNDBOOK代表の畑野幸治さんです。
FUNDBOOKは、中小企業に向けてM&Aのアドバイザリーサービス、およびプラットフォームサービスを展開するベンチャー企業。多くの中小企業が抱える事業継承問題の解決などに注力し、現在は97名のスタッフを抱え、虎ノ門ヒルズにオフィスを構えています。
“若き成功者”ともいえる畑野さんですが、実際にお会いしてみるとクールな印象ではなく、とても情が深い方だと感じました。特に家族への思いが人一倍強い。その思いは学生時代の出来事が大きく影響しているそう。「父親は山一證券に勤務していましたが、私が14歳の時に自主廃業。その後、父親は起業しましたがひと筋縄ではいかず、実家は銀行の抵当に。母親も働きに出たものの身体を壊し入院してしまいました」と話してくださいました。
そんな経験を持つ畑野さんは、常に「家族のために何かしたい」と思い続けていたそうです。大学時代に起業したのも家計を助けるため。そして大きな事業を成功させた今、厳しい状況にもかかわらず大学まで出させてくれた両親への感謝と、苦しい時期を一緒に過ごした兄や妹と、いつでも仲良く集まれる場所をつくりたいという気持ちから、家を建てることを決意されました。
両親へ贈る邸宅づくりは年半前にスタート。畑野家が住み慣れた東京都練馬区に土地を探し、建物は仕事で付き合いのあった設計事務所に依頼をしました。でも、畑野さんはその設計図に疑問を持ったといいます。デザイン性は高いけれど、水回りや風通しが悪く、両親が暮らすには不便ではないかと。
そこでフリーダムに声をかけていただき、畑野さんとご両親の要望をお聞きするなかで、家族が集まる階のリビングに、光が降り注ぐ中庭をつくるという案を軸にした設計図を提出しました。すると、皆さん気に入ってくださり、畑野さんは当初の設計事務所にキャンセル料を払ってまで、我が社のプランに乗り替えてくれたのです。家づくりに懸ける情熱を感じましたね。
駐車場は出し入れ簡単なターンテーブルつき
当社が提案した新しい設計のポイントは“両親思い”。3階建ての家屋にはエレベーターを備え、移動に負担がかからないよう配慮しました。駐車場には、一軒家には珍しくターンテーブルを設置。これは畑野さんから「母親の首の状態が悪い」とお聞きしたためで、正面から入った車が180度方向を変えられるようにしました。ターンテーブルを使えば、首を回さずに楽に方向転換できますからね。
そのターンテーブルも、よくあるメタリックなものではなく、一軒家にふさわしい落ち着いたデザインを目指しました。回転盤の表面に重厚感ある石を張ることで、スタイリッシュな仕上がりになったと思います。
玄関フロアはアートギャラリーのように壁面を大きく取ったつくり。「パッチワークを趣味にする母親の作品を飾りたい」という畑野さんの要望に沿いました。ちなみにお母様は、展覧会を開くほどの腕前の持ち主です。
さらに畑野邸は“両親思い”であるだけでなく、“兄妹思い”でもあります。現在、畑野さんにはご両親、お兄さんと妹さん、そしてそのご家族がいらっしゃいますが、驚くほど皆さん仲がいい。誕生会やクリスマスパーティはもちろん、一家が集まる時間を大切にしています。そうしたところから、ダイニングとリビングは家族全員が揃っても余裕がある広めのつくりに。ふたつのスペースは連続しているので、食後に大人はダイニングで話しながら、お孫さんたちがリビングで遊ぶ姿を眺められ、一体感を得られます。
また、畑野さんたってのリクエストで、屋上のテラスは必須でした。家族全員でバーベキューが楽しめるよう、テーブルやソファのほか、キッチンを完備。この土地は周りに高い建物がなく、空が抜けている素晴らしい環境です。テラスの外周をぐるりと植物が取り囲み、南国のリゾート地を思わせる雰囲気を演出しました。
そして、家族で楽しく過ごした後はそのまま泊まっていけるようにと5つの部屋を設置。各部屋には、ダブルベッドやパソコンを備えたデスクを取りつけているのでちょっとした仕事も可能で、連泊にも対応できます。
畑野さんからは「私と母からいろいろな要望が出て、フリーダムさんは苦労されたと思います。でも、両者の意見を聞いてくれて、全員が満足する家ができ上がりました。家族の拠点ができて、これからが楽しみ」との言葉をいただきました。
この家で、一生の記憶に残る素敵な思い出をいっぱいつくっていただきたいですね。
Data
所在地:東京都練馬区
面積:241.12m2(敷地)/320.46m2(延床)
設計:フリーダムアーキテクツデザイン
「社長の邸宅プロジェクト」のホームページはこちら。
https://www.president-house.jp/
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