LiVES2021年12月-2022年1月号
都心の密集地に完成した 「実験住宅」が描き出す新しい暮らし
数々のライフスタイルを自由設計という形で住宅にしてきたフリーダム。 その代表である鐘撞正也氏の自邸が今年 8月、東京都中央区に完 成した。都心のオフィス密集地、約 14 坪という敷地など、さまざまな 条件の中、自らが設計して築きあげた、新しい暮らし方の提案とは?
text_ Jun Manabe photograph_Satoshi Watanabe
東京都中央区。所狭しと並ぶオフィスビルの間に建つ、スリムな6階 建の建物。取材中、何人もの人が「これはショールーム?ホテル?」といった面持ちで見上げる姿が見受けられたこの建物、LiVESでもお馴 染みの建築設計事務所「フリーダム」代表の鐘撞正也さんの自邸なのだ。 敷地面積は約14坪。このロケーションに自宅を建てるというチャレンジはどのように始まったのだろうか。「この自宅からフリーダムの本社は徒歩圏内なんです。以前から自宅は 何かあったときに会社まで歩いていける場所に、と考えていて最初はマンションを探していたのですが、このエリアでは思うような広々とした物件がない。そこで新築戸建てにシフトして、フリーダムの土地検索システム『ランディ』を使って数件目に見つけたのがこの土地でした」狭小地ではあるものの、商業地域であるため容積率は高く、縦方向にプランを伸ばしていくことはできる。鐘撞さんの頭の中には、奥様と5歳になるお子様の3人が快適に暮らす住まいのイメージがしっかり浮かんだという。
【鐘撞】 「コロナを機に、住まいの価値観が大きく変わりました。それまでは設計でも大きなリビングで家族が一緒になることを優先していましたが、現在はそれぞれが違ったデバイスでYoutubeを見て過ごしたりと、TVを中心に集まるのではなく、個の空間や時間、適度な距離感を重視するようになってきています。そんな現代のライフスタイルに即した暮らしの豊かさを、この敷地で表現してみようと思ったのです」
いわば、いままで様々な敷地や課 題に対応してきたフリーダムの経験値を集約した『実験住宅』。今回の自邸は、鐘撞さんが自らの手ですべての設計に臨んだという。プランは地上6階に加え屋上、さらに鐘撞さんの趣味であるゴルフシュミレーターを備えた地下室。家族それぞれの居室や憩いの空間を縦に組み上げていく形になった。
各フロアの移動用にエレベーターを設置。基本的には1フロア1室となっているが、天井高やフローリング素材などは各階で変化する。一番面積が必要とされるダイニングは、区の認定基準(道路斜線制限緩和)により、避難上有効なバルコニーの設置義務の対象外となる2階にして広々とした面積を確保。3階の子ども部屋の天井をスキップさせ、その上階に床面積に含まれない床下収納を設けるなど、住宅の法規制限を知り尽くした空間の工夫も随所に見られる。
鐘撞さんがワークスペースで仕事をしてる間、お子様と奥様はリビングで過ごすなど、それぞれの快適な距離感を保ちつつ、ときに屋上で食事したり、仕事に疲れたときは地下でゴルフレッスンに勤しむなど、生活も彩りを与える様々な〝仕掛け〞もある。昨今課題となっている、住まいの中での生活と仕事の両立に対するアンサーにもなりそうだ。
「最初、ビルに囲まれた小さな土地を 見た時は正直『こんなところに暮らせるの?』と思いましたが(笑)、暮らしてみたら違和感はぜんぜんなくて、とても快適です」(奥様)
隣地との距離がわずかしかない状況での地下の工事や地盤改良など、特殊な立地での苦労も多々あったという。そうしたチャレンジを詰め込んで、都心の真ん中に完成したフリーダムの『実験住宅』。完成した住まいは、実験という言葉の堅苦しさを感じさせることもなく、ごく自然に家族の快適な毎日を描き出している。
■LiVES(ライヴズ)
デザイン住宅、デザイナーズ・マンション、リフォーム&リノベーション、建築家など、
スタイルのある住宅を手に入れるための情報誌
隔月刊誌:奇数月15日発売 発行: 株式会社第一プログレス
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