GOETHEVol.16
Q. 年間約300棟も手がけているのに、
なぜ住宅展示場に出さないんですか?
Text=牛丸由紀子 Photograph=柳内 悠 Illustration=村林タカノブ
住宅展示場という落とし穴
家をつくりたいお客様がすること、それはまずネットでの情報収集。そして次のステップのほとんどが、住宅展示場の見学だ。さまざまなハウスメーカーの最新工法や設備を一度に見ることができる住宅展示場は、頭のなかだけにある家のイメージをより具体化できると多くの人が訪れる。しかし、実はこれが落とし穴。床面積が100坪もあったりするモデルハウスは、実際に自分が建てるサイズや予算の現実とは乖離していることがほとんど。特に大手ハウスメーカーの場合、仕様や設備がオプションであることも多く、リビングの暖炉や美しいキッチンに目を奪われたとしても豪邸を建てる人以外には現実味がまったくないと言っていい。
受注数より提案力
とはいえハウスメーカーにとっては、自分たちの家をアピールし認知度を高める重要な機会であることは事実。実はフリーダムにも住宅展示場への出展の話も。しかしギリギリまで悩んだ挙句、話は中止に。
設計力を売りにするフリーダムにとって、自分たちの家を示すチャンスであり、確実に受注を伸ばせる予測もありながら、なぜ踏みとどまったか? それは「持つリスク」だと気づいたからだ。理由のひとつは経費。一度モデルハウスを建てれば、建築費のほか、出展料・常駐スタッフの人件費など膨大な固定費が発生し、景気動向に即した柔軟な経営の足かせになる。そしてもうひとつが、フリーダムのビジネスモデルである〝設計の多様性〞との相反。フリーダムの強みは、お客様ひとりひとりのライフスタイルを設計で形にする提案力。モデルハウス1棟だけで、フリーダムの多様なイメージを伝えることは困難であり、本意ではないからだ。
この「持つリスク」は、設計と施工を一体化させないという考え方にも通ずる。もし自社で施工まで行うことになれば、利益追求のために建材の大量仕入れで原価を下げたり、あるいはより付加価値をつけた仕様にするなど客単価のアップが必要となる。しかしお客様にしてみれば、選択できる建材が限られる、施工費がアップするなど確実に不利益が。それでは従来のハウスメーカーと変わらない。会社の利益が顧客満足度と相反することには着手しない、そんな「持たない決断」は、利益を得ずとも正しい選択だと思っている。
お客様の本音に触れ、僕らの提案力を示すために、各地で「完成見学会」や「OB訪問会」を毎月実施している。夢見がちな住宅展示場とは違い、施主の方々がライフスタイルにこだわった本当にリアルな家づくりがそこにある。それこそが、フリーダムがどうしても譲れないこだわりなのだ。
■GOETHE (ゲーテ)
仕事を充実させ、その哲学を人生に反映させている人間たちの
物語を凝縮した、ライフスタイルマガジン
月刊誌:毎月24日発売 発行: 幻冬舎
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