GOETHEvol.7
Q. こんな家にしたい!実際にあった
面白いリクエストとは?
Text=牛丸由紀子 Photograph=柳内 悠 Illustration=モーリー☆ワイド
家造りにあたり
僕の設計事務所ではとことん施主の要望をお聞きし、何度も間取りの提案をする。営業担当を置かず、設計士が最初の打ち合わせから完成まで一貫して担当するのも、施主とのコミュニケーションを重視しているから。数ある経験のなかで、時にはあっと驚くリクエストが来ることも。
ペットとの快適な暮らしを提案することも得意としている僕ら。熱帯魚好きな施主は「リビングでも寝室でも、いつでも魚を見ていたい」と。リビングと寝室を分ける壁の中に水槽を入れるという提案で、水槽の重量を支える強度や、水槽の幅に合わせた壁の厚さなどを検討。水槽の厚みの分、部屋は狭くなってしまうが、施主は熱帯魚が一番! とその思いを実現した。
猫好きならではのエピソードもある。設計当初、1匹のノラ猫を飼い始めた施主。キャットタワーを入れた1畳ほどの猫用スペースを間取りに入れていたのだが、設計途中でなんと子猫が生まれてしまい、猫スペースが急遽4つに! しかもガラス張りだから、猫たちが遊んでいたり眠っていたりするのをいつでも見られるようにした特別仕様。結局コストはアップしたが、施主はニコニコ大満足。
他にもこれぞ男の夢!
と言わんばかりのリクエストや問題も。高級住宅地に建てた150坪の邸宅。施主の夢だった露天風呂を造ったが、1ヵ月後「お湯がすぐ冷める! 何とかして!」とお叱りの電話が。何しろ5m四方の広さのため、お湯を循環式にするには業務用機材が必要で予算オーバー。とはいえビニールシートでは瀟しょうしゃ洒な邸宅の美観を損なう。試行錯誤の末、分割できる檜ひのきの風呂蓋を特注で作ることで一件落着。
さらにはゴルフのグリーンを中庭に造る! という依頼も進行中。約30畳の中庭に、フラッグではなくクラシックなウィッカーバスケットを使用したこだわりのピンを立て、本格的なグリーンで毎日楽しんでいただく予定だ。また、書斎の奥の本棚をそっと押すと真っ暗な隠し部屋が現れる、なんてスパイ映画を地でいくリクエストもあれば、消防隊への憧れから、ロフトから消防士が滑り下りるポールが欲しいなど、思わず「そう来たか!」というリクエストも多数。
でもどんな要望もカタチにする、それが設計の仕事だと僕は思う。それは「建築家の先生が造った家」ではなく、施主自ら「この家は自分が考えたんだ」という気持ちを持ってほしいからだ。家造りとは、施主ひとりひとりの人生を受け止めるもの。これからも、思いもよらないリクエストが来るかもしれないけれど、その人生、僕がしっかり受け止めますよ!
■GOETHE (ゲーテ)
仕事を充実させ、その哲学を人生に反映させている人間たちの
物語を凝縮した、ライフスタイルマガジン
月刊誌:毎月24日発売 発行: 幻冬舎
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