LiVES編集長 特別対談
多様性の中に貫く個性。ユニークな設計集団として。
LiVES編集長
坂本 二郎氏
建築家の“作品”に住みたい人は減った
鐘撞坂本さんとは今から10年以上も前、まだフリーダムが神戸事務所だけだった頃からのお付き合いです。当時から『LiVES』の編集長をされていますが、家づくりで変わってきたところはありますか?
坂本建築家との家づくりについて言えば、かつては著名建築家に頼んでその作品に住みたい、というスタンスだったと思います。しかし今は、自分が持っている家づくりについての情報をうまく交通整理してくれるパートナーがほしいという人が多くなっているのではないでしょうか。
鐘撞確かに、有名建築家の設計した家に住むことに価値を見出す、という人は減っていますね。しかし、なぜそう変わってきたんでしょう?
坂本インターネットが普及して住宅に関するさまざまな情報を簡単に手に入れることができるようになりました。ファッションや本もそうですが、今はあらゆる情報が選びやすく並べられている。自分がほしいと思う生活も、ぼんやりとではあれ、見えるようになっているんです。しかし、情報が多いということは絞り込んでいくのも難しいということです。“先生”一人の事務所では、なかなか自分の求めるものと出会えないと感じているのではないか。だから様々な提案をする力がある事務所で、相談しながら進めていくパートナーを求めているのではないでしょうか。
鐘撞それはまさに、フリーダムがやらなければいけないと考えて進めてきたことです。
坂本その基本コンセプトとデザインの多様性は、フリーダムの魅力として認知されていると思いますね。
多様性に中に貫かれた“かっこよさ”
坂本ただ“多様性”とひとことで言えば簡単だけれど、難しいところもあります。「何でもできます」というのは、特徴がないということになりかねないから。
鐘撞確かにそうです。建て主であるお客さまの声をすべて聞けばいい、というものではないと思っています。お客さまの“いいなり”ではいいものはできない。かといって自分のデザインを押し通そうとすればひとりよがりの“作品”になってしまう。このバランスが難しい。
坂本一方に建て主から求められるものがあり、他方で時代から読み取るものがある。もちろん設計者としての感性や美意識もあるでしょう。そのせめぎ合いの中から、バランスをとりつつ最適なものを提案していく--確かにそれは簡単なことではではないと思う。
鐘撞柔軟で、たくさんの引き出しをもっていて、「こういう答もあります」と提案していける設計者の力が重要なんだと思います。そして常に、自分が“かっこいい”と思うものをつくりたいという意欲を持っていること。これがないと設計者は成長しません。
デザイン性が最優先の価値だとは思わない
鐘撞スタートした当初は「デザインに芯がない」とか「もっと作品性を押し出すべきだ」とか、建築家の方からいろいろ言われました。もちろん私自信、好きな建築家はいますし、デザインの好みもある。でも、お客さまによって求める世界は違います。そもそも私は住宅の設計で「デザイン性が最も優先順位が高い」と考えたことはありません。人によって、それは機能性であったりコストであったりする。ほとんど一生住宅ローンを払い続ける家づくりで、デザイン性が一番の価値になるのだろうか、と思いますね。こういうことをはっきり口にする建築家はあまりいないと思うけれど。
坂本作品性だけが注目されていた建築家との家づくりが転換期に入って、その時フリーダムという設計者の集団が、建て主の個々の要望を“かっこよく”加工してあげる、という新しい事業モデルをつくったんですね。「あの人に頼みたい」ではなくて「あそこに行けば自分の思うものができそうだ」ということが分かってきた。
鐘撞坂本さんに協力をいただいて『身の丈コストでデザイン住宅を建てる』という本を出しました。あれをつくる過程で私自身が、設計事務所としてどうしていくべきか、その考え方がはっきりしたということがあります。
坂本あれはいい本になりましたね。その中に「“この家は有名建築家に建ててもらった家”ではなくて、施主が“私たちが考えて形にした家だ”と思えるような家づくりがしたい」という鐘撞さんの言葉がありました。すごくいいフレーズだと思っています。
鐘撞ありがとうございます。事務所が大きくなっても、その精神をしっかりと貫いていくつもりです。
■LiVES(ライヴズ)
デザイン住宅、デザイナーズ・マンション、リフォーム&リノベーション、建築家など、
スタイルのある住宅を手に入れるための情報誌
隔月刊誌:奇数月15日発売 発行: 株式会社第一プログレス
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