Garage Life2015年4月号
クルマと暮らす夢の空間 Vol.5
クルマを中心にお客様とつながる
とても幸せだと思っています。
GarageLife(以下:GL): 小室さんが建築デザインの道に進まれた経緯から教えてください。
小室芳樹(以下:小室): 建築業界に携わったきっかけは大学生のころ、ひとつのデザイナーズマンションに興味を持ち、そのマンションを手がけた建築事務所を探して門をたたいたことからはじまります。もともと京都で育ったのですが、子どものころからクルマが好きで童夢に勤めたいと思っていたのです。それで大学では機械工学科で自動車の設計を学んでいました。しかし当時はバブルがはじけてモータースポーツ関係も下火になってきていたので、就職のことなどを考えると、自動車業界は苦しい状況だったこともあります。 そこでデザインに刺激を受けたデザイナーズマンションを手がけた設計事務所に行ってみたのですが、そこの所長が大のクルマ好きだったので、すぐに意気投合し、僕も建築模型なら作れるということで通うことになったのです。
GL: その最初に興味を持ったデザイナーズマンションにはガレージはついていたのですか?
小室: いいえ、住居だけのマンションでしたが、デザイン性に魅力を感じたのです。当時の建築雑誌などでも取り上げられていました。日中は設計事務所で働いて、夜になると所長が趣味で所有していたジネッタG12 のメンテナンスをするような日々でした。大学を卒業してもそのままその設計事務所に就職し、約5年間勤めました。その後別の設計事務所でさらに経験を積み、現在は『フリーダム』に在籍しています。
GL: 『フリーダム』には百名以上も建築デザインを担当されている設計士がいらっしゃると聞きました。 ライフスタイルを大事にした家づくりに力を入れており、各々個性を持った得意なスタイルを持っているそうですが、その中で小室さんはガレージというわけですね。
小室: そうですね。もちろん一般的な住宅を手がけることがほとんどの中で、ガレージハウスのような“クルマとどう暮らすか”ということを考える物件は、私が担当する中では年間で1 割程度を占めています。ほかの設計士では、犬や猫などのペットと同居するスタイルを得意とする人などもいますが、そういった案件は私のところへはほとんど来ませんね。 やはりその世界のことに精通していないと、施主の意向をしっかりと汲み取り、さらなる提案をするまでたどり着くことが難しいからです。クルマなど、お互いに共通の趣味であれば話も弾み、いい意見を交換しながら思い通りのスタイルを形にできます。
GL: 確かにペットを飼っていたり好きじゃないと気持ちが分からないですよね。逆にクルマが好きじゃないと、ガレージのことも分からないと思います。水場や換気扇が欲しいとか、メンテナンスがしたいとか、もっとクルマを身近に感じたいとか。GarageLife という雑誌を作っているので、そういったさまざまな要望があった上で作られたガレージをたくさん見てきましたが、いまでもガレージというものを、なかなか理解してもらえない工務店が多いとよく耳にします。
小室: トレンドというか私自身のブームなのですが、“クルマと同居する”というのが、これまでは大きなガラス窓越しに、ガレージとリビングをつなげるというものが多かったのですが、最近ですと、リビング、中庭、ガレージと、リビングとガレージの間にあえて空間を挟むことで、同じガラス越しでもいい距離感が生まれると考えています。さらに少し高低差をつけると、また新鮮なクルマの表情を眺めることができるのです。そのような提案をさせてもらっていますね。とはいえ、土地によっても設計は変わってきますし、オーナーさんの意向も汲みながら進めるものなので、一般的なトレンドではなく、あくまで個人的なブームですが。
GL: これまで携わってきた物件をいろいろと見せていただいていますが、どれも素敵なガレージハウスですね。これらを創造する小室さんのインスピレーションの源は、どこにあるのでしょうか。
小室: まず現地に行ってみることですね。その場に行って、もしここで生活するならば、どこからクルマを入れて、どこにクルマを置き、どこを眺めたいかなど、いろいろとイメージを膨らませます。
GL: これからガレージハウスを建てようとする際に、まずは土地選びをする人が多いと思うのですが、価格であったり、形状であったり、面積であったり、何かしらガレージに適したポイントというのはありますか?
小室: 「道路付け」と僕らは言っていますが、前の道路と土地との関係や、間口の広さを計算して土地を探すことは前提条件としてあると思います。1台、2台であれ3台であれオーナーのクルマの所有台数を、たいてい横に並べて置きたいという要望が多いですね。もちろん、土地を選ぶことができないという方には、それに対応した設計をさせていただきますが、もしガレージ付きの家を考えているのであれば、道路と土地の関係性(間口、高低差)を第一に考えたほうがいいでしょう。 それと一般的に住宅を作る際には、南向きが良いといわれますが、ガレージハウスの場合、その南側にガレージを設置することになります。よく考えないと、ガレージによって日当たりを妨げられる可能性も出てきまので、ガレージハウスの場合には一概に南向きが良いとは言い切れないのです。北側にガレージがあって南側に庭があるというスタイルも良いと思います。通常の住宅を作る際の土地選びとはやはり変わってきますね。
GL: ドイツ車やイタリア車、フランス車、またスポーツタイプなのかクラシックなのか、ガレージを求めてくる人は様々だと思います。それらの人々から、要望を引き出すこつなどはありますか?
小室: 個人的な感覚ですが、イタリア車に乗っている人は、家に関しても多少のメンテナンスは必要だと理解している方が多いような気がします。なので、きわどいところまで攻める設計をしたほうが喜ばれることがあります。対してドイツ車オーナーは、きっちりしたものを好まれますね。質実剛健といいますか、理にかなった考えを求められるような気がします。フランス車オーナーはクルマだけでなくレジャーやファッションなども含めたライフスタイル全般を楽しんでいる方が多く、ガレージだけでなく住居部分へのこだわりも大きいですね。ボルボオーナーは物事をしっかりと考える上、機能面においても要求が高く、しかも人とは違った個性を求められますね。私は直接担当をしていませんが、国産旧車の方などもガレージに対するこだわりは強いと聞きます。
GL: 小室さんご自身もS2000でサーキットなども走られると、事前に伺っていたのですが、クルマはどういったものが好みなのですか?
小室: 家族が増えて最近はメルセデス・ベンツE500に乗り換えたのですが、確かに以前は遊びでホンダS2000でサーキットなども行きました。大学生のころはセミスリを履かせたシビックに乗っていたのですが、S2000はストリートタイヤだったので、タイム的にはあまり出せません。でもスポーツ走行は好きですね。最近は4ドアのBMW M3が気になっています。
GL: ガレージの話題に戻しますが、一般的な住宅をつくるのとガレージハウスを作るのでは、外観や間取り等、設計上どんな違いがあるのですか?
小室: 一概に答えはありませんが、たとえばまず外観で言えば、ガレージハウスの場合、ガレージドアが大きな面積を占めますので、それに合ったスタイルを考えます。あとやはり正面は建物の顔となる部分なので、窓の大きさや設置場所などは気を使いますね。ガレージドアは間口6m が限界で、そのドアサイズに合ったデザインにするようにしています。あとは家族のメンバーのガレージに対する理解度によっても変わってきますね。しかし多くの人はガレージハウスに憧れを持って相談にこられるので、ある程度自由に設計させていただいています。 きっちりした提案と、どちらかというとアバンギャルドなデザインの提案の両方をさせていただくと、インパクトの強いほうを選ばれる方も多くいらっしゃいます。本当のオーナーの気持ちというのを上手く引き出すことが私たちの仕事だと考えています。 おかげさまで私は多くのガレージハウスを手がけさせていただいており、様々な要望にお応えしてきました。私自身は好きなクルマというものを中心に大切なつながりを持てたと思います。そういった点でガレージハウスを設計できることは幸せだと思っています。
■Garage Life
クルマをより楽しむための趣味空間=“ガレージ”にスポットを当てた、
日本で唯一!趣味のガレージ専門誌
季刊誌:3,6,9,12月1日発売
発行:ネコ・パブリッシング
https://www.neko.co.jp/tax_magazine/garagelife